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最高裁判所第一小法廷 平成6年(オ)1033号 判決 1994年10月27日

東京都台東区台東三丁目三七番八号

上告人

コロナ産業株式会社

右代表者代表取締役

高崎博

右訴訟代理人弁護士

川田敏郎

増岡由弘

長野県東筑摩郡朝日村大字古見犬ケ原八七五番地

被上告人

株式会社ドガ

右代表者代表取締役

今野哲男

右訴訟代理人弁護士

鳥飼公雄

右輔佐人弁理士

尾股行雄

右当事者間の東京高等裁判所平成五年(ネ)第一七二七号意匠権侵害差止等請求事件について、同裁判所が平成六年二月一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人川田敏郎、同増岡由弘の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三好達 裁判官 大堀誠一 裁判官 小野幹雄 裁判官 大白勝 裁判官 高橋久子)

(平成六年(オ)第一〇三三号 上告人 コロナ産業株式会社)

上告代理人川田敏郎、同増岡由弘の上告理由

原判決は、法令の解釈、適用を誤った法令の違背があり、右違背は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

一、原判決は、本件端子金具は、外部から全く看取することができず、また容易に分離できない等の状態であって本件電球セットの一構成部分であり独立性は全くないというべきであるから、被上告人において本件電球セットを販売しているとしても、これをもって本件端子金具を独立した物品として販売していることはできないと認定したうえ、結論として、ある物品について意匠を実施したというためには、その物品が経済的に一個の物品として独立して取引の対象となることを要すると解すべきであるところ、本件端子金具は右のとおり独立性が全くないから意匠の実施には当たらないとして上告人の控訴請求を棄却している。

二、意匠法第三七条第一項には、意匠権者は自己の意匠権を侵害する者に対し侵害の停止を請求することができると規定されている。

右の侵害とは、他人が登録意匠およびこれに類似する意匠を実施することである。

意匠の実施については、意匠法第二条第三項は意匠に係る物品を譲渡する行為を実施であると規定している。

右意匠の実施としての譲渡する物品は、単独の取引の目的とされ得る物品であることが必要である。

意匠法にいう実施(第二条第三項)にはそれ以外の要件はない。

すなわち、単独の取引の目的とされ得る物品を譲渡すれば、意匠法に規定する意匠の実施である。

従って、本件端子金具が外部から看取でき、容易に分離できるうえ、電球セットの一構成部分でない状態で譲渡することが意匠法第二条第三項に規定する意匠の実施であるとはされていない。

端子金具は、一見してわかるように単独に取引の目的とされ得るものであり、電球セットにはめ込んで物品として完成するものである。

然るに、原判決は、本件端子金具は、外部から全く看取することができず、また容易に分離できない電球セットの一構成部分であるから独立性は全くないので、経済的に一個の物品として独立して取引の対象となっていないので、電球セットを販売しても意匠の実施に当たらないと判断しているが、右判断は意匠の実施に関する意匠法第二条第三項の解釈を誤った判断であり、法令の違背である。

意匠の実施を原判決のように解釈すると、上告人の有する意匠権の対象である端子金具は常に電球セットにはめ込まれて使用されるため、端子金具の意匠について意匠登録を受けても、意匠法で認められている他人がその登録意匠およびこれに類似する意匠を実施することを禁止するという意匠権の基本的効力が認められないことになり、更に端子金具を単品と販売していれば意匠の実施となり、電球セットの構成部分として販売したのであれば意匠の実施にならないという奇妙な結果になる。

このことから考えても、原判決が意匠の実施について法令の解釈を誤っていることは明白である。

原判決が右法令の解釈を誤ることなく正当に解釈したならば、被上告人の端子金具をはめ込んだ電球セットの販売は、端子金貝の意匠の実施であるとの判断に達したにも拘らず、法令の解釈を誤った結果、被上告人の電球セットの販売は意匠の実施に当たらないとした原判決の法令違背は、判決に影響を及ぼすことは明らかである。

三、原判決は、本件意匠と本件端子金具の意匠との対比において、両意匠はいづれも端子金具に係るものであって、その基本的構成態様は、上段の接触板と中段の芯線かしめ板と下段のコード部かしめ板とがそれぞれ連接板を介して配線されてなるものである点で完全に共通である。具体的構成態様においては両者は(a)接触板がおおむね長方形状である点、(b)接触板の両側部やや下側に上辺を水平にする直角三角形状の突片が設けられている点、(c)接触板上辺のほぼ中央に突状辺が形成きれている点、(d)芯線かしめ板が横幅と高さの比をおおむね一対0・六とした横長の長方形状である点、(e)コードかしめ板が横長のおおむね長方形状で、高さを芯線かしめ板の高さのおおむね二分の一としたものである点で一致していると判断している。

前記の通り、意匠法第三七条第一項は、他人が登録意匠およびこれに類似する意匠を実施した場合には、これを意匠権の侵害として侵害の停止の請求を認めている。

従って意匠権の侵害であるか否かは実施している意匠が登録意匠に類似しているか否かによる。

右侵害の前提となる意匠の類否の判断は、全体的総合的観察を重視すべきであり、言い換えれば細部の部分的な差異よりも物品全体から受ける美観を重視するということである(播磨良承著工業所有権法Ⅱ三九九頁、光石士郎著意匠法詳説一〇〇頁)。

原判決の右判断は、全体的総合的観察によって本件意匠と本件端子金具の意匠とは類似していると適法に判断している。

しかるに原判決は、右判断の後に、本件意匠と本件端子金具の意匠とを殊更細部の部分的な点をとり上げて対比し、細部の部分的な差異が存することを理由に本件意匠と本件端子金具の意匠とは類似しないと判断している。

右判断は、意匠法に規定する意匠の類否は、全体的総合的観察を重視すべきであるとの法令の解釈を誤り、細部の部分的な差異により類似しないとの判断に達したものである。

原判決が、法令の解釈を誤ることなく全体的総合的観察を重視して類否の判断をしたならば、当然に本件意匠と本件端子金具の意匠とは類似するとの判断に達したものであるから、原判決のこの法令の解釈の誤りによる法令違背は判決に影響を及ぼすことは明らかである。

四、原判決は、上告人の有する類似一の類似意匠と本件端子金具の意匠の類否の判断についても、意匠の類否の判断は全体的総合的観察を重視しなければならないとする解釈を誤り、前記と同様に細部の部分的な差異があることを理由に本件端子金具の意匠は類似意匠にも類似していないとの判断をしている。

類似意匠と本件端子金具の意匠の類否について、原判決が法令の解釈を誤ることなく正当な解釈をしたならば、両者は類似するとの判断に達したことは明らかである。

五、意匠法に規定する類似意匠(意匠法第一〇条、第二二条)は、それ自身の登録を受ける権利を基として特許庁によって登録がなされるもので、それ自身の効力範囲があり、類似意匠の意匠権は、本意匠の意匠権と合体するので(意匠法第二二条)、類似意匠に類似する意匠は、本意匠に類似するものと解釈すべきことになる。

然るに原判決は、類似意匠制度は意匠の権利範囲の確認するために設けられたにすぎないものとし、類似意匠を特許法第七一条に規定する特許庁の鑑定的意見ともいうべき判定と同趣旨に理解し、類似意匠に何等の効力を認めない解釈をしている。

右原判決の解釈は意匠法の類似意匠の規定の解釈を誤ったもので、前項に記載したように原判決が正当に類似意匠と本件端子金具の意匠とが類似するとの判断をしたならば、本件意匠と本件端子金具の意匠とは類似するとの判断に到達することになる。

よってこの点においても原判決は、法令の解釈を誤った法令の違背が存することになる。

六、以上のような諸点において原判決は判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背があるのであるから、破棄の裁判がなさるべきである。

以上

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